孫を養子にする手続きと相続税

ある程度の資産を持っている方にとって、相続税は頭の痛い問題です。節税の方法の一つに、孫と養子縁組の手続きをすることについて聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。ただし、これは無条件に使えるわけではありませんので、正確な知識を持っておく必要があります。

孫との養子縁組によって相続税が減少する可能性があるのは、まず基礎控除の額が養子1人あたり1千万円増額すること、税率が下がること、死亡保険金と死亡退職金の非課税枠が1人についてそれぞれ500万円ずつ増額すること、子供の代を飛ばすことによって二重に課税されることを防げることがあります。

最後の二重の課税を防ぐという意味ですが、子供にいったん財産を譲り渡すと、その時にまず相続税がかかります。続いて、子供が亡くなって孫に遺産が移る際にも税金がかかります。こうして2段階の課税を受けることを免れることができるのです。ただし、これにはまったく対策が講じられていないわけではなく、代襲相続の場合を除いて孫には2割の加算がされます。もっとも、それでも十分に節税効果はあるため、検討の価値はあります。

上記の理由から、相続税を減らすために縁組をすることにメリットがあるわけですが、条件もありますので、注意が必要です。

養子の数は無制限ではない

国としても、過度に節税をされては税収が取れなくなってしまいます。そのため、無制限に縁組を認めてはいません。具体的には、相続税の計算の上での被相続人の養子の数を制限しており、実子がいる場合には1人だけ、実子がいなければ2人としているのです。

つまり、孫がたくさんいるからといって、全員と縁組をしても、相続税を考える上では意味がないのです。縁組を結ぶことはできますし、遺産を与えることはできますが、税制上はこのような取り扱いをすることによって、不当に課税を免れる行為は禁じられています。

相続税の節税効果がないケースも

税金を減額させることだけが目的とみなされると、税務署から租税回避行為として取り扱われることがあります。孫を養子にすることには問題がありませんが、目的が節税だけである場合には、制度の本来の用途とは異なることになります。

そのため、税務署が納得するような内容である必要があります。たとえば、介護が必要な状態で生活しており、長年に渡って孫が身の回りの世話をしてくれた場合や、死後にお墓を守ってもらうことになるといった理由の場合には、認められる可能性が高いと言えるでしょう。

せっかく縁組をしても、目的によっては相続税の節税効果がないことに注意してください。税務署によっても扱いは異なるので難しいところですが、専門家のアドバイスも受けておくと、失敗する危険性を減らすことができるでしょう。

孫を養子にする手続き

直系卑属に該当しますので、孫と養子縁組をする場合には、まったくの他人と縁組をする場合よりも条件が緩やかになります。というのは、未成年者の場合であっても家庭裁判所の許可が不要であるためです。したがって、通常よりも手続きは簡単になります。

15歳未満の子供を養子にする場合には法定代理人が養親と届け出ることになり、15歳以上であれば本人が養親と共に届け出ることになります。法定代理人は、実父母であることが一般的です。

もっとも、当事者間での合意が必要ですので、祖父母の立場として孫と円海を行いたいと思っても、相手に拒否されてしまえば無効になります。

配偶者の同意が得られない場合も縁組はできません。養子になることや養親になることによって法定相続人が増えることになり、配偶者にとっても影響が出るためです。そのため、同意がない場合には受理されないことになります。

また、手続きとは関係がありませんが、縁組をすることによって、配偶者以外にも法定相続分や遺留分に影響を与えることになります。たとえば、Aさんには弟が2人いて、娘(実子)が一人おり、妻はすでに亡くなっているとします。この場合、一人娘の孫と縁組をすることによって、娘の法定相続分は半額になります。なお、この場合には2人の弟はもともと法定相続人としての順位が娘に劣り、遺留分もありません。

上記の例で、Aさんに複数の子供がいる場合には、孫との関係は叔父や叔母と甥・姪という関係になります。この場合、他の子供の法定相続分や遺留分も減少するため、揉め事になる可能性もはらんでいることを把握しておく必要があります。